和歌と俳句

古集

神さぶる岩根こごしきみ吉野の水分山を見れば悲しも

皆人の恋ふるみ吉野今日見ればうべも恋ひけり山川清み

夢のわだ言にしありけりうつつにも見て来るものを思ひし思へば

すめろきの神の宮人ところづらいやとこしくに我れかへり見む

吉野川巌と栢と常磐なす我れは通はむ万代までに

宇治川は淀瀬なからし網代人舟呼ばふ声をちこち聞こゆ

宇治川に生ふる菅藻を川早み採らず来にけりつとにせましを

宇治人の譬への網代我れならば今は寄らまし木屑来ずとも

宇治川を舟渡せをと呼ばへども聞こえずあらし楫の音もぜず

ちはや人宇治川波を清みかも旅行く人の立ちかてにする

しなが鳥猪名野を来れば有馬山夕霧立ちぬ宿りはなくて

武庫川の水脈を早みか赤駒の足掻くたぎちに濡れにけるかも

命をし幸くよけむと石走る垂水の水をむすびて飲みつ

さ夜更けて堀江漕ぐなる松浦舟楫の音高し水脈早みかも

悔しくも満ちぬる潮か住吉の岸の浦廻ゆ行かましものを

妹がため貝を拾ふと茅渟の海に濡れにし袖は干せど乾かず

めづらしき人を我家に住吉の岸の埴生を見むよしもがも

暇あらば拾ひに行かむ住吉の岸に寄るよいふ恋忘れ貝

馬並めて今日我が見つる住吉の岸の埴生を万代に見む

住吉に行くといふ道に昨日見し恋忘れ貝言にしありけり

住吉の岸に家もが沖に辺に寄する白波見つつ偲はむ

大伴の御津の浜辺をうちさらし寄せ来る波のゆくへ知らずも

楫の音ぞほのかにすなる海人娘子沖つ藻刈りに舟出すらしも

住吉の名児の浜辺に馬立てて玉拾ひしく常忘らえず

雨は降る仮廬は作るいつの間に吾児の潮干に玉は拾はむ