天霧らひひかた吹くらし水茎の岡の港に波立ちわたる
大海の波は畏ししかれども神を斎ひて舟出せばいかに
娘子らが織る機の上を真櫛もち掻上げ栲島波の間ゆ見ゆ
潮早み磯廻に居れば潜きする海人とや見らむ旅行く我れを
波高しいかに楫取水鳥の浮寝やすべきなほや漕ぐべき
夢のみに継ぎて見えつつ高島の磯越す波のしくしく思ほゆ
静けくも岸には波は寄せけるかこれの屋通し聞きつつ居れば
高島の安曇白波は騒けども我れは家思ふ廬り悲しみ
大海の磯もと揺り立つ波の寄せむと思へる濱の清けく
玉櫛笥みもろと山を行きしかばおもしろくしていにしへ思ほゆ
ぬばたまの黒髪山を朝越えて山下露に濡れにけるかも
あしひきの山行き暮らしやど借らば妹立ち待ちてやど貸さむかも
見わたせば近き里廻をた廻り今ぞ我が来る領巾振りし野に
娘子らが放りの髪を由布の山雲なたなびき家のあたり見む
志賀の海人の釣舟の網堪へなくも心に思ひて出でて来にけり
志賀の海人の塩焼く煙風をいたみ立ちは上らず山にたなびく