荒磯越す波を畏み淡路島見ずか過ぎなむここだ近きを
朝霞やまずたなびく竜田山舟出すなむ日我れ恋ひむかも
海人小舟帆かも張れると見るまでに鞆の浦廻に波立てり見ゆ
ま幸くてまたかへり見むもすらをの手に巻き持てる鞆の浦廻を
鳥じもの海に浮き居て沖つ波騒くを聞けばあまた悲しも
朝なぎに真楫漕ぎ出て見つつ来し御津の松原波越しに見ゆ
あさりする海人娘子らが袖通り濡れにし衣干せど乾かず
山越えて遠津の濱の岩つつじ我が来るまでにふふみてあり待て
大海にあらしな吹きそしなが鳥猪名の港に泊つるまで
舟泊ててかし振り立てて廬りせむ名児江の濱辺過ぎかてぬかも
妹が門出入りの川の瀬を早み我が馬つまづく家思ふらしも
白栲ににほふ真土の山川に我が馬なづむ家覆ふらしも
背の山に直に向へる妹の山事許せやも打橋渡す
人にあらば母が愛子ぞあさもよし紀の川の辺の妹と背の山
我妹子に我が恋ひ行けば羨しくも並び居るかも妹と背の山
妹に恋ひ我が越え行けば背の山の妹に恋ひずてあるが羨しさ
妹があたり今ぞ我が行く目のみだに我れに見えこそ言とはずとも
足代過ぎて糸鹿の山の櫻花散らずもあらな帰り来るまで
名草山言にしありけり我が恋ふる千重の一重も慰めなくに
安太へ行く小為手の山の真木の葉も久しく見ねば蘿生しにけり
玉津島よく見ていませあおによし奈良なる人の待ち問はばいかに
潮満たばいかにせむとか海神の神が手渡る海人娘子ども
玉津島見てしよけくも我れはなし都に行きて恋ひまく思へば
黒牛の海紅にほふももしきの大宮人しあさりすらしも
若の浦に白波立ちて沖つ風寒き夕は大和し思ほゆ