和歌と俳句

古集

名児の海の朝明のなごり今日もかも磯の浦廻に乱れてあるらむ

住吉の遠里小野の真榛もち摺れる衣の盛り過ぎゆく

時つ風吹かまく知らず吾児の海の朝明けの潮に玉藻刈りてな

住吉の沖つ白波風吹けば来寄する濱を見れば清しも

住吉の岸の松が根うちさらし寄せ来る波の音のさやけき

難波潟潮干に立ちて見わたせば淡路の島に鶴渡る見ゆ

家離り旅にしあれば秋風の寒き夕に雁鳴き渡る

円方の港の洲鳥波立てや妻呼びたてて辺に近づくも

年魚市潟潮干にけらし知多の浦に朝漕ぐ舟も沖に寄る見ゆ

潮干ればともに潟に出で鳴く鶴の声遠ざかる磯廻すらしも

夕なぎにあさりする鶴潮満てば沖波高み己妻呼ばふ

いにしへにありけむ人の求めつつ衣に摺りけむ真野の榛原

あさりすと磯に我が見しなのりそをいづれの島の海人か刈りけむ

今日もかも沖つ玉藻は白波の八重をるが上に乱れてあるらむ

近江の海港は八十ちいづくにか君が舟泊て草結びけむ

楽浪の連庫山に雲居れば雨ぞ降るちふ帰り来我が背

大御船泊ててさもらふ高島の三尾の勝野の渚し思ほゆ

いづくにか舟乗りしけむ高島の香取の浦ゆ漕ぎ出来る舟

飛騨人の真木流すといふ丹生の川言は通へど舟ぞ通はぬ

霰降り鹿島の崎を波高み過ぎてや行かむ恋しきものを

夏麻引く海上潟の沖つ洲に鳥はすだけど君は音もせず

足柄の箱根飛び越え行く鶴の羨しき見れば大和し思ほゆ

若狭にある三方の海の濱清みい行き帰らひ見れど飽かぬかも

印南野は行き過ぎぬらし天伝ふ日笠の浦に波立てり見ゆ

家にして我れは恋ひなむ印南野の浅茅が上に照りし月夜を