居明かして君をば待たむぬばたまの我が黒髪に霜は降るとも
人こそばおほにも言はめ我がここだ偲ふ川原を標結ふなゆめ
楽浪の志賀津の海人は我れなしに潜きはなせそ波立たずとも
大船に楫しもあらなむ君なしに潜きせめやも波立たずとも
月草に衣ぞ染むる君がため斑の衣摺らむと思ひて
春霞井の上ゆ直に道はあれど君に逢はむとた廻り来も
道の辺の草深百合の花笑みに笑みしがからに妻といふべしや
黙あらじと言のなぐさに言ふことを聞き知れらくは悪しくはありけり
佐伯山卯の花持ちし愛しきが手をし取りてば花は散るとも
時ならぬ斑の衣着欲しきか島の榛原時にあらねど
山守の里へ通ひし山道ぞ茂くなりける忘れけらしも
暁の夜烏鳴けどこの森の木末の上はいまだ静けし
あしひきの山椿咲く八つ峰越え鹿待つ君が斎ひ妻かも
西の市にただひとり出でて目並べず買ひてし絹の商じこりかも
今年行く新島守が麻衣肩のまよひは誰れか取り見む
大船を荒海に漕ぎ出や船たけ我が見し子らがまみはしるしも
百敷の大宮人の踏みし跡ところ沖つ波来寄らずありせば失せずあらましを
こもりくの泊瀬の山に照る月は満ち欠けしけり人の常なき
旅にして妻恋すらしほととぎす神なび山にさ夜更けて鳴く