万葉集・巻第三・雑歌
み吉野の 吉野の宮は 山からし 貴くあらし 川からし さやけくあらし 天地と 長く久しく 萬世に 変らずあらむ いでましの宮
昔見し象の小川を今見ればいよよさやけくなりにけるかも
万葉集・巻第三・雑歌
世間は空しきものと知る時しいよよますます悲しかりけり
橘の花散る里のほととぎす片恋しつつ鳴く日しぞ多き
やすみしし我が大君の食す国は大和もここも同じとぞ思ふ
いざ子ども香椎の潟に白栲の袖さへ濡れて朝菜摘みてむ
隼人の瀬戸の巌も鮎走る吉野の滝になほしかずけり
湯の原に鳴く葦鶴は我がごとく妹に恋ふれや時わかず鳴く
万葉集・巻第三・挽歌
うつくしき人のまきてし敷栲の我が手枕をまく人あらめや
万葉集・巻第三・挽歌
帰るべく時はなりけり都にて誰が手本をか我が枕かむ
万葉集・巻第三・挽歌
都にある荒れたる家にひとり寝ば旅にまさりて苦しかるべし
竜の馬も今も得てしかあをによし奈良の都に行きて来むため
うつつには逢うふよしもなしぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ
いかにあらむ日の時にかも声知らむ人の膝の上我が枕かむ
言とはぬ木にはありともうるはしき君が手馴れの琴にしあるべし
君がため醸みし待酒安の野にひとりや飲まむ友なしにして
我が園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも
我が盛りいたくくたちぬ雲に飛ぶ薬食むともまたをちめやも
雪に飛ぶ薬食むよは都見ばいやしき我が身またをちぬべし
残りたる雪に交れる梅の花早くな散りそ雪は消ぬとも