和歌と俳句

万葉集

巻第三

<< 戻る | 次へ >>

   門部王詠東市之樹作歌一首後賜姓大原真人氏也 
東市之殖木乃木足左右不相久美宇倍恋尓家利

   門部王、東の市の樹を詠みて作る歌一首 
東の市の植木の木垂るまで逢はず久しみうべ恋ひにけり

   ■作村主益人従豊前国上京時作歌一首 
梓弓引豊国之鏡山不見久有者恋敷牟鴨

   くら作村主益人、豊前国より京に上る時に作る歌一首 
梓弓引き豊国の鏡山見ず久ならば恋しけむかも

   式部卿藤原宇合卿被使改造難波堵之時作歌一首 
昔者社難波居中跡所言奚米今者京引都備仁鶏里

   式部卿藤原宇合卿、難波の京を改め造らしめらるる時に作る歌一首 
昔こそ難波田舎と言はれけめ今は都引き都びにけり

   土理宜令歌一首 
見吉野之滝之白浪雖不知語之告者古所念

み吉野の滝の白波知らねども語りし継げばいにしへ思ほゆ

   波多朝臣児足歌一首 
小浪磯越道有能登淵河音之清左多芸通瀬毎尓

さざれ波磯越道なる能登瀬川音のさやけさたぎつ瀬ごとに

     暮春之月幸芳野離宮時中納言大伴卿奉勅作歌一首并短歌
見吉野之 芳野乃宮者 山可良志 貴有師 水可良思 清有師 天地与 長久  万代尓 不改将有 行幸之宮

     暮春の月に、吉野の離宮に幸す時に、中納言大伴卿、勅を奉りて作る歌一首并せて短歌
み吉野の 吉野の宮は 山からし 貴くあらし 水からし さやくあらし 天地と 長く久しく  万代に 改らずあらむ 幸しの宮

     反歌
昔見之 象乃小河乎 今見者 弥清 成尓来鴨

昔見し 象の小川を 今見れば いよよさやけく なりにけるかも