和歌と俳句

万葉集

巻第三

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雑歌

   天皇御遊雷岳之時 柿本朝臣人麻呂作歌一首

   天皇、雷岳に遊す時に、柿本朝臣人麻呂が作る歌一首

皇者神二四座者天雲之雷之上尓盧為流鴨
    右或本云 献忍壁皇子也 其歌曰
王神座者雲隠伊加土山尓宮敷座

大君は神にしませば天雲の雷の上に盧せるかも
    右は、或本には忍壁皇子に献るといふ。その歌に曰く
大君は神にしませば雲隠る雷山に宮敷きいます

   天皇贈志斐嫗御歌一首 
不聴跡雖云強流志斐能我強語比者不聞而朕戀尓家里

   天皇、志斐嫗に贈ふ御歌一首
いなと言へど強ふる志斐のが強ひ語このころ聞かず我れ恋ひにけり

   志斐嫗奉和歌一首 
不聴雖謂語礼〃〃常詔許曽志斐伊波奏強語登言

   志斐嫗が和へ奉る歌一首
いなと言へど語れ語れと詔らせこそ志斐いは奏せ強ひ語りと言ふ

   長忌寸吉麻呂應詔歌一首
大宮之内二手所聞網引為跡網子調流海人之呼聲

   長忌寸吉麻呂、詔に応ふる歌一首
大宮の内まで聞こよ網引すと網子ととのふる海人の呼び声