和歌と俳句

柿本人麻呂

万葉集・巻第二・挽歌
久堅乃天見如久仰見之皇子乃御門之荒巻惜毛

ひさかたの天見るごとく仰ぎ見し皇子の御門の荒れまく惜しも

万葉集・巻第二・挽歌
茜刺日者雖照有烏玉之夜渡月之隠良久惜毛

あかねさす日は照らせれどぬばたまの夜渡る月の隠らく惜しも

万葉集・巻第二・挽歌
嶋宮勾乃池之放鳥人目尓戀而池尓不潜

島の宮まがりの池の放ち鳥人目に恋ひて池に潜かず

万葉集・巻第一・雑歌
樂浪之思賀乃辛碕雖幸有大宮人之船麻知兼津

楽浪の志賀の辛崎幸くあれど大宮人の船待ちかねつ

万葉集・巻第一・雑歌
左散難弥乃志我能大和太與杼六友昔人二亦母相目八毛

楽浪の志賀の大わだ淀むとも昔の人にまたも逢はめやも

物乃部能八十氏河乃阿白木尓不知代経浪乃去過白不母

もののふの八十宇治川の網代木にいさよふ波のゆくへ知らずも

淡海乃海夕浪千鳥汝鳴者情毛思努尓古所念

近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのにいにしへ思ほゆ


皇者神二四座者天雲之雷之上尓廬為流鴨

大君は神にしませば天雲の雷の上に廬りせるかも

王神座者雲隠伊加土山尓宮敷座

大君は神にしませば雲隠る雷山に宮敷きいます


万葉集・巻第一・雑歌
雖見飽奴吉野乃河之常滑乃絶事奈久復還見牟

見れど飽かぬ吉野の川の常滑の絶ゆることなくまたかへり見む

万葉集・巻第一・雑歌
山川毛因而奉流神長柄多藝津河内尓船出為加母

山川も依りて仕ふる神ながらたぎつ河内に舟出せすかも

万葉集・巻第二・挽歌
敷妙乃袖易之君玉垂之越野過去亦毛将相八方

敷栲の袖交へし君玉垂の越智野過ぎ行くまたも逢はめやも