和歌と俳句

万葉集

巻第一

 << 戻る | 次へ >>

   過近江荒都時柿本朝臣人麻呂作歌
玉手次 畝火之山乃 橿原乃 日知之御世従  阿礼座師 神之盡 樛木乃 弥継嗣尓  天下 所知食之乎 天尓満 倭乎置而  青丹吉 平山乎超 何方 御念食可  天離 夷者雖有 石走 淡海國乃  樂浪乃 大津宮尓 天下 所知食兼  天皇之 神之御言能 大宮者 此間等雖聞  大殿者 此間等雖云 春草之 茂生有  霞立 春日之霧流 百磯城之 大宮處 見者悲毛 

近江の荒れたる都を過ぐる時に、柿本朝臣人麻呂が作る歌
玉たすき 畝傍の山の 橿原の ひじりの御代ゆ 生れましし 神のことごと 栂の木の いや継ぎ継ぎに 天の下 知らしめししを そらにみつ 大和を置きて あおによし 奈良山を越え いかさまに 思ほしめせか 天離る 雛にはあれど 石走る 近江の国の 楽浪の 大津の宮に 天の下 知らしめしけむ 天皇の 神の命の 大宮は ここと聞けども 大殿は ここと言へども 春草の 茂く生ひたる 霞立つ 春日の霧れる ももしきの 大宮ところ 見れば悲しも

   反歌
楽浪之思賀乃辛崎雖幸有大宮人之船麻知兼津

楽浪の志賀の唐崎幸くあれど大宮人の舟待ちかねつ

左散難弥乃志我能大和太与杼六友昔人二亦母相目八毛

楽浪の志賀の大わだ淀むとも昔の人にまたも逢はめやも