和歌と俳句

万葉集

巻第一

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   幸于吉野宮之時柿本朝臣人麻呂作歌
八隅知之 吾大王之 所聞食 天下尓  國者思毛 澤二雖有 山川之 清河内跡  御心乎 吉野乃國之 花散相 秋津乃野邊尓  宮柱  太敷座波 百磯城乃 大宮人者  船並弖 旦川渡 船競 夕河渡  此川乃 絶事奈久 此山乃 弥高思良珠  水激 瀧之宮子波 見礼跡不飽可問

吉野の宮に幸す時に、柿本朝臣人麻呂が作る歌
やすみしし 我が大君の きこしめす 天の下に 国はしも さはにあれども 山川の 清き河内と 御心を 吉野の国の 花散らふ 秋津の野辺に 宮柱 太敷きませば ももしきの 大宮人は 舟並めて 朝川渡る 舟競ひ 夕川渡る この川の 絶ゆることなく この山の いや高知らす 水激く 滝の宮処は 見れど飽かぬかも

   反歌
雖見飽奴吉野乃河之常滑乃絶事無久復還見牟

見れど飽かぬ吉野の川の常滑の絶ゆることなくまたかへり見む

安見知之 吾大王 神長柄 神佐備世須登  芳野川 多藝津河内尓 高殿乎 高知座而  上立 國見乎為勢婆 疊有 青垣山  山神乃 奉御調等 春部者 花挿頭持  秋立者 黄葉頭刺理 逝副 川之神母  大御食尓 仕奉等 上瀬尓 鵜川乎立  下瀬尓 小網刺渡 山川母 依弖奉流 神乃御代鴨

やすみしし 我が大君 神ながら 神さびせすと 吉野川 たぎつ河内に 高殿を 高知りまして 登り立ち 国見をせせば たたなはる 青垣山 山神の 奉る御調と 春へは 花かざし持ち 秋立てば 黄葉かざせり 行き沿ふ 川の神も 大御食に 仕え奉ると 上つ瀬に 鵜川を立ち 下つ瀬に 小網さし渡す 山川も 依りて仕ふる 神の御代かも

   反歌
山川毛因而奉流神長柄多芸津河内尓船出為加母

山川も依りて仕ふる神ながらたぎつ河内に舟出せすかも

右日本紀曰 三年己丑正月天皇幸吉野宮
八月幸吉野宮四年庚寅二月吉野宮 五月幸吉野宮
五年辛卯正月幸吉野宮 四月幸吉野宮者 未詳知何月従駕作歌