夜の帳に ささめき尽きし 星の今を 下界の人の 鬢のほつれよ
歌にきけな 誰れ野の花に 紅き否む おもむきあるかな 春罪もつ子
髪五尺 ときなば水に やはらかき 少女ごころは 秘めて放たじ
血ぞもゆる かさむひと夜の 夢のやど 春を行く人 神おとしめな
椿それも 梅もさなりき 白かりき わが罪問はぬ 色桃に見る
その子二十 櫛に流るる 黒髪の おごりの春の 美しきかな
堂の鐘の ひくきゆふべを 前髪の 桃もつぼみに 経たまへ君
紫に もみうらひほふ みだれ篋を かくしわづらふ 宵の春の神
臙脂色は 誰にかたらむ 血のゆらぎ 春のおもひの さかりの命
紫の 濃き虹説きし さかづきに 映る春の子 眉毛かぼそき
紺青を 絹にわが泣く 春の暮 やまぶきがさね 友歌ねびぬ
まゐる酒に 灯あかき宵を 歌たまへ 女はらから 牡丹に名なき
海棠に えうなくときし 紅すてて 夕雨みやる 瞳よたゆき
水にねし 嵯峨の大堰の ひと夜神 絽蚊帳の裾の 歌ひめたまへ
春の国 恋の御国の あさぼらけ しるきは髪か 梅花のあぶら
今はゆかむ さらばと云ひし 夜の神の 御裾さはりて わが髪ぬれぬ
細きわが うなじにあまる 御手のべて ささへたまへな 帰る夜の神
清水へ 祇園をよぎる 花月夜 こよひ逢ふ人 みな美しき
秋の神の 御衣より曳く 白き虹 ものおもふ子の 額に消えぬ
経はにがし 春のゆふべを 奧の院の 二十五菩薩 歌うけたまへ
山ごもり かくてあれなの みをしへよ 紅つくるころ 桃の花さかむ
とき髪に 室むつまじの 百合のかをり 消えをあやぶむ 夜のと淡紅色よ
雲ぞ青き 来し夏姫が 朝の髪 うつくしいかな 水に流るる
夜の神の 朝のり帰る 羊とらへ ちさき枕の したにかくさむ
みぎはくる 牛かひ男 歌あれな 秋のみづうみ あまりさびしき