和歌と俳句

與謝野晶子

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小傘とりて 朝の水くみ 我とこそ 穂麦あをあを 小雨ふる里

おとに立ちて 小川をのぞく 乳母が小窓 小雨のなかに 山吹のちる

恋か血か 牡丹に尽きし 春のおもひ とのゐの宵の ひとり歌なき

長き歌を 牡丹にあれの 宵の殿 妻となる身の 我れぬけ出でし

春三月 柱おかぬ琴に 音たてぬ ふれしそぞろの 宵の乱れ髮

いづこまで 君は帰ると ゆふべ野に わが袖ひきぬ 翅ある童

ゆふぐれの 戸に倚り君が うたふ歌 「うき里去りて往きて帰らじ」

さびしさに 百二十里を そぞろ来ぬと 云ふ人あらば あらば如何ならむ

君が歌に 袖かみし子を 誰と知る 浪速の宿は 秋寒かりき

その日より 魂にわかれし 我れむくろ 美しと見ば 人にとぶらへ

今の我に 歌のありやを 問ひますな 柱なき繊絃 これ二十五絃

神のさだめ 命のひびき 終の我世 琴に斧うつ 音ききたまへ

人ふたり 無才の二字を 歌に笑みぬ 恋二万年 ながき短き