和歌と俳句

山吹

子規
春駒の あゆみもおそし 賤が家の 垣根にさける 山ぶきの花

子規
あやにくに 枝のみだれて 玉河の 浪をりかへる 岸の山吹

山吹の垣にとなりはなかりけり 子規

風吹て山吹蝶をはね返し 子規

山吹の花の雫やよべの雨 子規

馬の息山吹散つて馬士も無し 漱石

山吹の淋しくも家の一つかな 漱石

山吹や小鮒入れたる桶に散る 子規

子規
人も来ず春行く庭の水に上にこぼれてたまる山吹の花

子規
里川の流にかけし水車汲みてはこぼす山吹の花

山吹の花くふ馬を叱りけり 子規

子規
山吹の 花咲く宿に 萬葉の 歌の講義の 会を開きぬ

左千夫
垣のもとに茂り生ひたる山吹のしづ枝に一つ花咲き残る

左千夫
うら若き尼の三人が出て汲むあかゐのもとの山吹の花

山吹ののこらず咲いて霖雨かな 亞浪

晶子
おとに立ちて 小川をのぞく 乳母が小窓 小雨のなかに 山吹のちる

晶子
みかへりのそれはた更につらかりき闇におぼめく山吹垣根

晶子
山ずみの深き井をくむ春のくれひと重山吹わが恋ごろも

晶子
兄が世は御室の宮の御弟子僧都扇折る子にやまぶき咲きぬ

茂吉
さ庭べの八重山吹の一枝散りしばらく見ねばみな散りにけり

山吹やほきほき折れて髄白し 放哉

晶子
ゆく春の春日の宮の玉垣の松の根にちる山ぶきの花

筏組む日を山吹に猿の出て 碧梧桐

晶子
驢をよびて驢に鞍おきて鞍につけちるをよろこぶ山吹の花

晶子
春過ぎて木蔭に小く咲きいでぬ末の子に似る山吹の花

憲吉
あから引く真昼の庭に蔭おほし咲きて照りたる山吹の花

傘さして山吹を折る小庭かな 碧梧桐