和歌と俳句

梨の花

杖ついた人は立ちけり梨子の花 鬼貫

馬の耳すぼめて寒し梨の花 支考

実のために枝曲られて梨子の花 也有

折る人に秋の欲なし梨子の花 也有

長き日をましろに咲ぬなしの花 蕪村

梨の花月に書みよむ女あり 蕪村

甲斐がねに雲こそかかれ梨の花 蕪村

滴せばしづくと絶むなしの花 暁台

朝雨や簾ごしなるなしの花 白雄

実の為に枝たはめじな梨の花 太祇

あだ花と聞ばけだかし梨のはな 几董

子規
たたかひの跡とぶらへば家をなみ道の邊にさくつま梨の花

梨咲くやいくさのあとの崩れ家 子規

徒歩で行く大師詣や梨の花

待つ宵の夢ともならず梨の花 漱石

晶子
雨しろう梨ちる夜の姉が御手鐘にかしこき春ぞと泣かる

千樫
雨あがり夕日あかるき新湯殿ゆげ立つそとに梨のはな咲く

静かに暮すやうに梨畑花咲く 碧梧桐

冷眼に梨花見て轎を急がせし 龍之介

人行くや梨花に風景暗き村 龍之介

こぼれ合うて畑に盛りや梨の花 石鼎

散り残つた梨の花びらの梨なる白さ 碧梧桐

梨の花既に葉勝ちや遠みどり 風生

冬越えの梨うつくしや草の家 犀星

梨咲くと葛飾の野はとの曇り 秋櫻子

梨咲くと古りたる墳を人訪ひぬ 秋櫻子