篁も藁家もとけぬ春の雪
陽炎に掘り出されし壺ぞかし
梨咲くと古りたる墳を人訪ひぬ
山焼く火檜原に来ればまのあたり
屋根石や前山焼くる火明りに
とくいでて春月高し湖の上
おもひきや春月のぼる藪のひま
春雷や暗き厨の桜鯛
春潮に浮びて険し城が島
春水や毛氈かへて詣で舟
諸鳥の地に嘆かへり涅槃像
うち向ふ谷に藤咲くゆあみかな
夜桜や水田の月をみぎひだり
花烏賊のしわしわ釣るる真闇かな
日輪や蝌蚪の水輪の只中に
遊園や鴛鴦も浮べる蝌蚪の水
庭石や木蓮揺るる影すなり
木蓮を打つほどもなく雹晴れぬ
芽柳や水の真菰は枯れしまま
沈丁の葉ごもる花も濡れし雨
靴脱に女草履や沈丁花
人来ねば土筆長けゆくばかりかな
蒲公英や激浪寄せて防波堤
咲くよりも落つる椿となりにけり
蔓からむ枝をわたりぬ落椿
春愁のかぎりを躑躅燃えにけり