百合赤し夕立晴れし草の中
夜の雲に噴煙うつる新樹かな
焼岳のはだへの荒き新樹かな
なつかしや帰省の馬車に山の蝶
桑の実の照るに堪へゆく帰省かな
やうやくに倦みし帰省や青葡萄
桑の実や湖のにほひの真昼時
麦笛や雨あがりたる垣のそと
おもがげやその夏痩の髪ゆたか
山彦のゐてさびしさやハンモツク
夜船待つひとまどろみに蚊帳くらし
箸とれど極暑の膳の興もなし
孔雀草かがやく日照続くかな
水中花顫ひとけたる花瓣かな
中元のいつもの画なる団扇かな
桟橋に出て夕凪の団扇かな
姿見に見ゆる風鈴鳴りにけり
風鈴の荷に川風や橋の上
定斎売わたりかけたり佃橋
楫の音夕づきそめぬ青簾
睡たさのうなじおとなし天瓜粉
蚊遣して出づるや蜑が軒つづき
鰡はねて河面暗し蚊喰鳥
涼み舟洲に乗り上げし真暗がり