和歌と俳句

水原秋櫻子

鰯雲こころの波の末消えて

萩の風何か急かるる何ならむ

轡虫雨の宵寝の耳はなれ

かくれ咲くひとつの蓮や稲の花

筆措いて早稲吹く風をききにいづ

廃運河水澄む秋をやや澄めり

残月やひらかむ芙蓉十あまり

曼珠沙華日焼けて網を肩にせる

廃れし倉咲きそふ野菊雨くらし

吹き降りの野菊に海が少し見ゆ

野の窪に湛へし雨や菊日和

熱き茶の喉に痛くて澄みぬ

雨くらく晴れても寒く黄なり

曇り日のすでに暮れつゝ菊みだる

瀬を早み明けゆく霧の瀬とながる

茶が咲きて驚き起す稿のあり

虹立てり雲中の山枯れむとす

柚子ひとつ描きて疲る風邪のあと

冬鯊ものこる紅葉も片瀬川

山茶花や潮に乗り来る海の鯊

山路来て駿河の海に冬日落つ

伊豆の湯は霜月末の菊匂ふ

蜜柑山遠雲垂れて天城見ゆ

鵯鳴けり霜燦爛の多摩郡

桑枯れて大菩薩嶺をつらぬけり