和歌と俳句

鰯雲

鰯雲旅を忘れしにはあらず 多佳子

荒園の又美しやいわし雲 多佳子

鰯雲けふの日附の友の文 蕪城

鰯雲読みし葉書は手に白し 蕪城

國やぶれ天子は御所にいわし雲 蛇笏

今日はただ燕を見たし鰯雲 楸邨

いわし雲大いなる瀬をさかのぼる 蛇笏

兒をだいて日々のうれひにいわし雲 蛇笏

葬送の山路がかりにいわし雲 蛇笏

鰯雲葛西の空に鵜がかへる 秋櫻子

鰯雲個々一切事地上にあり 草田男

なにゆゑのなみだか知らず鰯雲 万太郎

三十年前にもここに鰯雲 鷹女

鰯雲ひろがりひろがり創痛む 波郷

鰯雲寝返る背骨鳴りあひき 楸邨

鰯雲鞴の息に鉄めざめ 楸邨

蟻上下消えてゐたりし鰯雲 汀女

一鱗の乱れだもなき鰯雲 風生

鰯雲こころの波の末消えて 秋櫻子

貨車洗ふ水が光りぬ鰯雲 楸邨

鰯雲運河の筏ともに満つ 波郷

妻がゐて子がゐて孤独いわし雲 

雪を被て富士は迥かにいわし雲 蛇笏

電工の登り切つたる鰯雲 三鬼

ひややかに夜は地をおくり鰯雲 龍太

鰯雲日かげは水の音迅く 龍太

憂し長し鰯雲への滑走路 三鬼

藍に白を点じぬ城ある鰯雲 草田男

鰯雲うからやからに寿司巻かむ 静塔

鰯雲甕担がれてうごき出す 波郷