和歌と俳句

鉦叩 かねたたき

ふるさとの土の底から鉦たたき 山頭火

鉦たたきよ鉦をたたいてどこにゐる 山頭火

鉦叩きたたきやめたる虫の声 風生

鳴きいでゝ遠くもあらず鉦たたき 烏頭子

鉦叩がんぴの花の下あたり 立子

ふとさめて静かな夜なり鉦叩 立子

には松のよひの幹より鉦叩 石鼎

暁は宵より淋し鉦叩 立子

鉦叩たゝき揃はず二つかな 淡路女

想念の穴ふかぶかと鉦叩 茅舎

鉦叩驚破やと聴けど幽かな 茅舎

鉦叩二つの鉦の揃はざる 茅舎

わが幸を句に求めつつ鉦叩 立子

月出でて四方の暗さや鉦叩 茅舎

鉦叩打ちあやまりてはじめより みどり女

鉦叩また絶壁を落ちし夢を 茅舎

わが心ひそかに聞ゆ鉦叩 汀女

母と寝て古風な話鉦叩 立子

やがて暁そゆゑの闇の鉦叩 友二

鉦叩ところを移す幽かかな 汀女

鉦叩風に消されてあと打たず みどり女

なき初めし今宵の蟲は鉦叩 素十

鉦叩左の耳に聞えをり 素十

長かりし夏のつづきの鉦たたき 誓子

夜は玻璃戸みなしめゐるに鉦叩 誓子

書いて行くひとつのことに鉦叩 汀女

鉦叩昼もたたけりしづかなる 草城

鉦叩こゝにも鳴いて旅半ば 立子

一夏の旅路の果ぞ鉦叩 汀女

誰がために生くる月日ぞ鉦叩 信子

鉦叩ただ一筋や二夜三夜 汀女

鉦叩たゝきて孤独地獄かな 

かねたたき高温多湿の日が暮れて 草城

羅漢寺の尼ぜは有髪鉦叩 立子

鎌倉やいつもどこかに鉦叩 立子

腹立つははしたなきこと鉦叩 立子

鉦叩ひとつ波音つづるなり 悌二郎