旅人とわれと樗の落花踏む
栴檀の花天碧く咲き満ちて
湯もどりの子の濡髪に椎匂ふ
雨しづきつゝかぐはしき椎の花
花過ぎてなほ杜中に椎匂ふ
杜に入る一歩に椎の花匂ふ
何といふ寒さぞ一八花咲くに
溝の穢に一八白き蕾して
蛍火の砂に落ちたる海の浜
童女また夏は疵して遊びけり
干梅のやはらかさ指触れねども
星天を夜干の梅になほ祈る
清水飲むつつがの胸の板濡らし
炎天の遠き帆やわがこころの帆
蝸牛渦の終りに点をうつ
七月や赤き木屑を挽き散らし
七月や眼より馬情を推しはかる
七月の蛍遅しとせざるなり
帆を以て帰るを夏のゆふべとす
子の生れし家なり瓜を刻むかな
旅籠屋の二階虫干するあはれ
育てたる妻をしのぎて蕃茄の木
妻も濡る青き蕃茄の俄雨