和歌と俳句

山口誓子

遠星

颱風のあとや日光正しくて

一輛の貨車がもとなるちちろ虫

大き材が海に漂ふ野分あと

なきやみてなほ天を占む法師蝉

こほろぎが鳴くなりわれに頭を向けて

艶なるや海のおもてのいなびかり

いなづまのゐる闇縁のところまで

秋風にわが手のひらをかがやかせ

月明にものをいふこそしづかなれ

颱風過砂浜砂に埋れしよ

無花果を流れの上に熟せしむ

夜は玻璃戸みなしめゐるに鉦叩

秋刀魚焼く煙の中の妻を見に

蟷螂の緑眼にいまわれ映る

蟷螂のきらりきらりと顔を向け

蟷螂の斧くちびるにあてて舐む

菌山天の直下に飯を食ふ

菌山やや人境をへだてたり

星落ちしところかや露濃やかに

星流る身後のわれの何ならむ

椎の樹の雨はらはらと神無月

冬来れば双親の膝あたたかに