颱風のあとや日光正しくて
一輛の貨車がもとなるちちろ虫
大き材が海に漂ふ野分あと
なきやみてなほ天を占む法師蝉
こほろぎが鳴くなりわれに頭を向けて
艶なるや海のおもてのいなびかり
いなづまのゐる闇縁のところまで
秋風にわが手のひらをかがやかせ
月明にものをいふこそしづかなれ
颱風過砂浜砂に埋れしよ
無花果を流れの上に熟せしむ
夜は玻璃戸みなしめゐるに鉦叩
秋刀魚焼く煙の中の妻を見に
蟷螂の緑眼にいまわれ映る
蟷螂のきらりきらりと顔を向け
蟷螂の斧くちびるにあてて舐む
菌山天の直下に飯を食ふ
菌山やや人境をへだてたり
星落ちしところかや露濃やかに
星流る身後のわれの何ならむ
椎の樹の雨はらはらと神無月
冬来れば双親の膝あたたかに