和歌と俳句

楠目橙黄子

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炉塞ぐや額に胡装の友の像

蒙古風に船出ずといふや雁帰る

私邸にて政務見つありぬ竹の秋

追従を許さじと使ひけり

王妃生みし邑の跡なし夏の山

葭切に鮒釣るは市の漢子かな

秋立つや軽く下痢病む朝心

憎みしが畏敬の念に展墓かな

前の馬に迫る馬叱る女郎花

女郎花官人の情事旅にあり

田落して往還人に交りけり

四大門の一つ毀たれかな

初冬の門広し兵の執る箒

足袋白く衣食の道を求めけり

柴漬や川風受けて店障子

寒月や斯くて去る港顧みす

囀りや普請余材は堂の下

春風やいつか褪めゆく楼の色

まひまひにまふ水の月やがてなき

葉柳や舟人に夜の岸高し

病む腹を馬に揺らるゝ露夜道

牧夫来れば牛皆動く野菊かな

氷割る槌を備へし渡舟かな

埋火の二階の闇へ梯子かな

墓山の松に二月の野風かな

袷人盲ひてありぬ子に読ます

晒布人磧に這へる南風かな

官遊に一泊の寺や夏の山

兵溢れて日除の店の二軒かな

島を遠く細々と日除柱かな

向日葵や夜を駈る馬に水飼へる

曾て見ざりし寛げる君や単衣物

峰寺へ米担ふ人や秋の空

雨の中行く馬上かな

門衛の灯に音せしは木の実かな

内房や女ばかりに木の実雨

畚の土しめやかにありにけり

江のに艫高く漕ぐ舟夫かな

晴山に高々と昼かな

飛簷高くの上ッ雲流れけり

行秋の楽器庫青く塗られけり

小門多く潜りて廟の銀杏かな

職を抛つ汝にありし火鉢かな

焚火人面罵に堪えてゐたりけり

柳枯れて景に遊べる古老かな

大年の故郷への汽車に疲れゐる

に埋れて舟水にある静かさよ

氷辷るや驕れるさまの脚揚げて

氷上渡る一人と見れば暮色かな

春昼や睫震へる簿書の上

廃宮に鼎大いなり春の雷

巣に下りし烏にゆるゝ梢かな

温む水に黒く全き朽葉かな

甍滝の如し囀る松の中

艪波すぐ吹き消す風のかな

種子を播く拳こまやかに打ちふれる

艪を担いで園丁来るかな

甍驕つて松籟高し若楓

牡丹散つて葉茂し風に揺れ止まず

葉柳や住み着きし農に舟と牛