草枕たまの宵寝に風邪薬
階に御鬮のちりや初詣
柵やつんではね出て猫柳
宮島は西日にあかき汐干かな
たぎつ瀬に重なる枝や山さくら
山藤の短き房を活けにけり
満目の流材のうごき青嵐
岩魚釣石菖深く座を求む
絶壁に身をへばりつけ岩魚釣
蚕棚見ゆ小家々々も耶馬の景
身を伏せて岩根づたひや河鹿とり
蓑笠にはりつく草や草刈女
訪れて雷雨に中に話しけり
夏の炉の灰美しく用ゐけり
さらさらの芥かゝれり簗の上
木犀をきゝそめにしや夜の道
障子洗ふ潮さしくるや泊り船
茸狩や鳥居をくゞる古き道
大いなる籠の古びや茸莚
耶馬渓も通り飽きたり稲の花
冬川やからからきしる綱渡舟
漁小屋の一枚窓や冬の浪
初凪の壇の浦辺やゆきゝかな
春寒き桃の切枝や二三日
野梅折る蕾はらはらこぼれつゝ
並びたる杭の絶間の猫柳
鶯やかたみに啼いて淵の上
海苔桶のくろぐろとして小さけれ
飼はれたる雉子はげしく歩りきけり
山路を横切る水やほとゝぎす
遣りすごす馬のにほひや時鳥
しづかなる広き邸や青簾
灯して尚捲かずある簾かな
園の門入れば直ちに萩の風
真青なる浪ゆり返す根釣かな
門入りて歩みとゞめぬ散り紅葉
散り紅葉松のあらしに添ひにけり
紅葉散るや鴉が啼ける東山
秋耕の人大きさよ川向ひ
河豚の座やふたゝび立てば海暗き
梅剪つてもたらせし人の話かな
炉襖に身を寄せて待つ午餉かな
春水や重なり泳ぐ鯉の数
春風や門に出でゝは待ち歩りき
小でまりを活けたる籠も佳かりけり
すぐ乾く硯を置けり藤の花
高どのに皆下ろしある簾かな
浮き出でし鯰をかしや泉殿
打ち上げし藻屑がくれの防風かな
くづれたる花そのまゝに牡丹畑
真黒な葵の花のさかりかな
上り下りして温泉の道や垣葵
蒲の穂に消ゆる山あり沼の上
とりあげし団扇は青くかろかりし
本をよむ水夫に低き日覆かな
朝夕のわが門べなる萩の花
俳諧の雑誌の数や獺祭忌
子供等といたゞく菓子や墓詣
一しきりはげしく降りて雨月かな
鮎舟の淦汲みくれぬ仮渡し
谷々に灯す荘や十三夜
泉水をよごせる塵や冬構
冬構して大いなる宿屋かな
この里の西郷話炉辺の冬