師弟ともなき交りの寒見舞
手袋の失せざりければ持つ古びかな
淋しさや雪の上なる枯枝屑
鳥の巣の上枝の鳥や向ふむく
春風や江沙へ道の自ら
春雨や二階の前の松梢
行春や黄ばみ落ちたる八ツ手の葉
漣や藻なきほとりの藻刈舟
濠端や揚げ重ねたる藻刈舟
横へて竿長々と藻刈舟
古盆やのせて長々大粽
釣堀に顔も見やらず話しかけ
釣堀にけふも降られし帽子かな
杳かなる田植の人の憩ひかな
木耳を我が噛む音を聞きにけり
夏川の流材濁りし光りかな
籐椅子や青松毬を夕眺め
五月雨や廂の下の大八ツ手
なほざりに団扇白しや古畳
まひまひの一つが失せし草根かな
病葉や隣の森の公使館
病葉や十字架胸に清教徒
避暑宿や鉱泉湧かす夕煙
夜の秋や乾ける温泉の石だゝみ
七夕竹二本よせてぞ賑はしく
灯りし小公園や法師蝉
新涼の灯が早かりし夕餉かな
新涼や夜の烏羽玉の松容ち
秋風や砂に汚き打上藻
久方の墓参の俥列らなれり
長旅の疲れごころの展墓かな
鳥おどし響くや西へ筑後川
秋雨や昼の褞袍の抗夫達
屋根苔の深くもぬれし時雨かな
冬水や南天挿して生簀箱
一と時雨いや高まさる瀬音かな
風邪引きや髯蓬々の山男
をかしさや全く枯れし菊に傘
山芝や枯れにぞ枯れし狐色
や山路深く石だゝみいつまでも足疲れゐし布団かな
山住や小遣ひためて春隣
粧ひして旧正月の山女
山村や梅未だしのうす日和
若衆に戸ぼそ隙けある囲炉裡かな
冬山や溯りあさりて老鵜飼
くろぐろと筧の垢や十二月
焚火人明日の仕事を合点かな
紺青の背色つらねし目刺かな
一幅の絵雛の春や草の宿
囀りのかぶさり啼くや山鴉
うらゝかや行く山径を疑はず
前山や杉の高きゆ春の雨
春暁や穂を重ねたる谷間杉
春夕や傘さげ帰る宮大工
恋猫の二三疋なる姿かな
踏むがまゝ磧蓬の日和かな
籠まけて萎えし蓬の皆葉裏
干反りたる竹の葉下や崖蓬
朝靄のぼつぼつ雨や蓮浮葉