和歌と俳句

楠目橙黄子

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

座について待つ間の茶菓や河豚の宿

春の潮大いに鳴つてをりにけり

片開きしたる馬酔木の門のあり

大阪の船の見えをる汐干かな

行春ややく打たれたる寺畑

来し道の山吹を又たづねけり

薔薇園正しき路のめぐりたる

ばらの香のをりをり強し雨の中

四阿に白き卓子や薔薇の雨

汀なる古きてすりや燕子花

人を待つ心々の端居かな

入梅や刈らずにありて葉山吹

かわせみのいつまでもゐて飛びにけり

ふりかぶる大綿雲や鮎を掛く

鵜の岩に鵜のをらぬなり土用浪

ダリア見る頭はいたく疲れをり

露けしとおばしまに手をかけにけり

灯を置いて月を待つ座のあちこちに

ぬかるみて雨月の園の径かな

秋雨や硝子戸入れしかゝり船

まろまろと背山がありて紅葉寺

行人にすゝめる酒や秋祭

ストーブやペン執る飛行客名簿

飛行機を下りて暖炉と紅茶かな

秋耕のひとも見えなくなりにけり

真中に松花江ある枯野かな

河豚の鉢すでにある座に来りけり

どの船も烏賊を干したる小春風

石炭車門司へ入りくる長々と

風強くなりし辛夷の花ありぬ

家々や先帝祭の客設け

目会釈をして道中の女かな

燈台の下の芝生の菫かな

強ぶりに潮の岬の春の雨

傘さして春潮を見る芝生かな

春潮のけづれる岩のかたちかな

大川を家さしはさむ桜かな

紀の国の春あわたゞし豆の花

満開の桜がうつる入江かな

石塀の厚き構や八重桜

浜木綿の真青の葉や春の雨

この潮の真珠はぐゝむ春の闇

杉むらへますぐのや春の雨

滝落ちて岩をめぐれば春の水

春雨のちぎれてとぶや滝の前

鶯や駕籠にのりたる那智詣

立ち並ぶ宮居静かや花の雨

千木かくす枝垂桜のさかりかな

雨雲のたえまの滝や花の上

稚木なる徐福の塚のさくらかな

桜咲く日本書紀の宮居かな

春川や舟にひろげし案内図

舟行や春雨はれし熊野川

次ぎ次ぎの滝見て上る春の川

指して仰げる花や舟の中

瀞に入る左の峯の山さくら