和歌と俳句

秋の風

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垂れ毛虫皆木にもどり秋の風 亞浪

秋風や顔虐げて立て鏡 蛇笏

うごきつゝ広がる菱や秋の風 石鼎

秋風や芝より雀又塔へ 石鼎

秋の風芭蕉にふれて遅速あり 石鼎

秋風や日山に入り出さぬ馬車 櫻坡子

秋風や井戸をいでたる棹の丈 万太郎

秋風や右に勝れし左の眼 茅舎

秋風や酒量あがりし美少年 茅舎

秋風や黒子に生えし毛一根 龍之介

向日葵の金の古びや秋の風 喜舟

秋風や人なき道の草の丈 龍之介

秋風やあれし頬へぬる糸瓜水 久女

秋風の枕上なる櫛鏡 久女

秋風や氷嚢からび揺るる壁 久女

秋風の街角の一人となりし 山頭火

噛みしめる飯のうまさよ秋の風 山頭火

秋風やしばしば頬に釣しぶき みどり女

雲に明けて月夜あとなし秋の風 水巴

晶子
白樺の木を研ぎ遠き信濃路の野尻の湖を秋風の研ぐ

晶子
秋風やかなへの如き脚もたぬ花草どもを哀れとぞ思ふ

憲吉
み空より雲居くだりて秋ぐさの花野にわたる風のくまなさ

八一
ゆふさればきしのはにふによる蟹のあかきはさみに秋のかぜふく

八一
耳しふとぬかづくひとも三輪やまのこのあきかぜをきかざらめやも

酒焼の胸くれなゐや秋の風 喜舟

長櫃や昔虫食ふ秋の風 喜舟

秋風や砂に汚き打上藻 橙黄子

秋風や手筥の蓋のうす埃 淡路女

うしろから秋風来たり草の中 水巴

仏前の灯をふきぬ秋の風 虚子

焼原の日も暮れてゆく秋の風 亞浪

秋風に立ちてかなしや骨の灰 龍之介

秋風や余震に灯る油皿 水巴

秋風や水に落ちたる空のいろ 万太郎

いたづらに蓼ののびたり秋の風 万太郎

秋風や甲羅をあます膳の蟹 龍之介

秋風や秤にかかる鯉の丈 龍之介

われを見る机上の筆や秋の風 蛇笏

ちりとりに日当る庭や秋の風 石鼎

千樫
夕づく日赤くさしたる朴の木の廣葉うごかし秋風吹くも

菩提樹によりかかりまた月と逢うてゐる 山頭火

秋風や土龍の土に蟻の塔 石鼎

釣人や笠の陰りの秋の風 夜半

秋風や放生もれし籠の鳥 月二郎

秋風や親疎別ある両隣 播水

秋風やありし句稿に故人の朱 播水