門限に連れ立ち去りし夜長かな
仰臥して腰骨いたき夜長かな
仰臥して見飽きし壁の夜長かな
病める手の爪美くしや秋海棠
我に逆ふ看護婦憎し栗捨てよ
我寝息守るかに野菊枕上
目ひらけば揺れて親しき野菊かな
閉ぢしまぶたを落つる涙や秋の暮
椅子移す音手荒さよ夜半の秋
汝に比して血なき野菊ぞ好もしき
我ドアを過ぐ足音や秋の暮
薬つぎし猪口なめて居ぬ秋の蠅
病む卓に林檎紅さむやむかず見る
にこにこと林檎うまげやお下げ髪
九月尽日ねもす降りて誰も来ず
よべの風に柿の安否や家人来ず
寝返れば暫し身安き夜長かな
朱唇ぬれて葡萄うまきかいとし子よ
野菊やや飽きて真紅の花恋へり
秋晴や寝台の上のホ句つくり
秋風や氷嚢からび揺るる壁
粥すする匙の重さやちちろ虫
咳堪ゆる腹力なしそぞろ寒
言葉少く別れし夫婦秋の宵
栗むくや夜行にて発つ夫淋し