和歌と俳句

杉田久女

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門限に連れ立ち去りし夜長かな

仰臥して腰骨いたき夜長かな

仰臥して見飽きし壁の夜長かな

病める手の爪美くしや秋海棠

我に逆ふ看護婦憎し栗捨てよ

我寝息守るかに野菊枕上

目ひらけば揺れて親しき野菊かな

閉ぢしまぶたを落つる涙や秋の暮

椅子移す音手荒さよ夜半の秋

汝に比して血なき野菊ぞ好もしき

我ドアを過ぐ足音や秋の暮

薬つぎし猪口なめて居ぬ秋の蠅

病む卓に林檎紅さむやむかず見る

にこにこと林檎うまげやお下げ髪

九月尽日ねもす降りて誰も来ず

よべの風に柿の安否や家人来ず

寝返れば暫し身安き夜長かな

朱唇ぬれて葡萄うまきかいとし子よ

野菊やや飽きて真紅の花恋へり

秋晴や寝台の上のホ句つくり

秋風や氷嚢からび揺るる壁

粥すする匙の重さやちちろ虫

咳堪ゆる腹力なしそぞろ寒

言葉少く別れし夫婦秋の宵

むくや夜行にて発つ夫淋し