和歌と俳句

杉田久女

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春寒や刻み鋭き小菊の芽

麦の芽に日こぼす雲や春寒し

春寒の髪のはし踏む梳手かな

揃はざる火鉢二つに余寒かな

鳥の餌の草摘みに出し余寒かな

春暁の窓掛け垂れて眠りけり

春暁の夢のあと追ふ長まつげ

草庵やこの絵ひとつに春の宵

小鏡にうつし拭く墨宵の春

春の夜のねむさ押へて髪梳けり

春の夜や粧ひ終へし蝋短か

春の夜のまどゐの中にゐて寂し

ゆく春やとげ柔らかに薊の座

ゆく春の流れに沿うて歩みけり

のぞき見ては塀穴ふさぐ日永かな

あたたかや水輪ひまなき庇うら

あたたかや皮ぬぎ捨てし猫柳

淡雪にみな現はれし葉先かな

東風吹くや耳現はるるうなゐ髪

船板に東風の旗かげ飛びにけり

春の雨苗すこやかに届きけり

春雨や土押し上げて枇杷二葉

春雨の畠に灯流す二階かな

春雨や畳の上のかくれんぼ

菓子ねだる子に戯画かくや春の雨

歯茎かゆく乳首かむ子や花曇

嵐山の枯木もすでに花曇

春泥に柄浸けて散れる木の実赤

浮きつづく杭根の泡や水ぬるむ

ぬるむ水に棹張りしなふ濁りかな

土出でて歩む蟇見ぬ水ぬるむ

春著きるや裾踏み押へ腰細く

鬢かくや春眠さめし眉重く

風をいとひて鬢に傾げし春日傘

道のべの茶すこし摘みて袂かな

草摘む子幸あふれたる面かな

簷に吊る瓢の種も蒔かばやな

青き踏むや離心抱ける友のさま

姉ゐねばおとなしき子やしやぼん玉

ひとでふみ蟹とたはむれ磯あそび

押し習ふ卒業式の太鼓判

栴檀の花散る那覇へ入学す

入学児に鼻紙折りて持たせけり

燕来る軒の深さに棲みなれし

藪風に ただよへる虚空かな

蝶去るや葉とぢて眠るうまごやし

すこし飛びて又土にあり翅破れ蝶

旭注ぐや蝶に目覚めしうまごやし

指輪ぬいて蜂の毒吸ふ朱唇かな