和歌と俳句

杉田久女

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ぬかづけばわれも善女や仏生会

無憂華の木蔭はいづこ仏生会

葺きまつる芽杉かんばし花御堂

靴買うて卒業の子の靴磨く

卒業やちび靴はくも今日限り

青き踏む靴新らしき処女ごころ

卒業の子に電報すよきあした

炊き上げてうすき緑や嫁菜飯

かきわくる砂のぬくみや防風摘む

防人の妻恋ふ歌や磯菜摘む

元寇の石塁はいづこ磯菜摘む

蕗の薹ふみてゆききや善き隣

磯菜つむ行手いそがんいざ子ども

甦る春の地霊や蕗の薹

水上へうつす歩みや濃山吹

盆に盛る春菜淡し鶴料理

落椿の葉くぐり落ちし日の斑かな

蒼海の波騒ぐ日や丘 椿

花ふかき館に径ある夜宴かな

花莟む梢の煙雨ひもすがら

襟巻に花風寒き夕べかな

たもとほる桜月夜や人おそき

せせらぎに耳すませ居ぬ山桜

坊毎に春水はしる筧かな

蕗味噌や代替りなる寺の厨

咲く広寿の僧も住み替り

お茶古びし花見の縁も代替り

新船卸す瀬戸の春潮とこしなへ

新艘おろす東風の彩旗へんぽんと

釣舟の漕ぎ現はれしの上

花の寺登つて海を見しばかり

花の坂船現はれて海蒼し

傘をうつ牡丹桜の雫かな

うす墨をふくみてさみし雨の花

雨ふくむ薄墨桜みどりがち

掃きよせてある花屑も貴妃桜

風に落つ楊貴妃桜房のまゝ

きざはしを降りる沓なし貴妃桜

春昼や坐ればねむき文机

春寒の毛布敷きやる夜汽車かな

いつくしむ雛とも別れ草枕

寮住のさみしき娘かな雛まつる

健やかにまします子娘等の雛祭

寝返りて埃の雛を見やりけり

春愁の子の文長し憂へよむ

望郷の子のおきふしも花の雨

春愁癒えて子よすこやかによく眠れ