晶子
びろうどの薄青色の机かけわが目のみ見る春のひるがた
千樫
春まひる日のかへろひに湖の面はくろく沈みぬそのひとときを
晶子
春の昼梯子の口に手を打てばこだまするなり桃色の壁
牧水
プロペラのひびきにまじり聞え居り春の真昼の吾子が泣きごゑ
春昼や塀の内なる畑つくり 禅寺洞
春の昼遠松風のきこえけり 草城
春昼や睫震へる簿書の上 橙黄子
春昼の僧形杉に隠れけり 石鼎
春昼を燻らす紫烟厨より 橙黄子
春昼や法廷に泣く人の声 石鼎
春昼や布団正しき置炬燵 播水
春昼やほのほのかに匂ふ青畳 播水
春昼や人形を愛づる観世音 茅舎
白秋
春まひる 眞正面の塔の 照りしらむ 廻縁高うして しづかなる土
白秋
塔や 五重の端反 うつくしき 春昼にして うかぶ白雲
白秋
春まひる 隣に聴きて ひそけさよ 珠數みがく子らが 息吹ためつつ
春昼や炊煙あぐる奈良ホテル 草城
くしけづる音のかそけく春の昼 草城
春昼や大鍵さげて案内僧 爽雨
春昼や坐ればねむき文机 久女
春昼や陸をふちどる海の藍 草城
春昼や海女もきてゐる真珠店 爽雨
山深く芽を掻く籠や春の昼 蛇笏
湯あがりの素顔したしも春の昼 草城
黄熱の海盤車歎けり春昼を 誓子
貞応の鐘ついて見よ春の昼 野風呂
春昼や洗ひ洗ひて白子乾 たかし
春昼の漁具森閑と小屋の中 たかし
春昼に耐へてましろき鰈を焼く 鷹女
春昼の母子爪剪る向きあひて 楸邨
春昼の繕ひ物にある幸か 知世子
春昼の廚が暗くなりにけり 知世子
遠き汽車俯向き下る春の昼 誓子
春昼や竹の穂かしらながく垂れ 占魚
七いろの貝の釦の春の昼 誓子
春昼や海人の喪服の群れ帰る 誓子
春昼や牛長鳴いて地が沈む 誓子
妙齢の息しづかにて春の昼 誓子