きさらぎの藪にひびける早瀬かな
早春や藪の穂並に風見えて
きさらぎや小夜のくだちのマンドリン
寺の灯もなべて春めく宵なれや
水餅の水の濁りや冴返る
かんばしく紅茶のたぎる餘寒かな
檄を書く餘寒の紙の白さかな
春暁や人こそ知らね樹々の雨
春暁の一水迅し窓の下
春の昼遠松風のきこえけり
妻もするうつりあくびや春の宵
春の夜や檸檬に触るる鼻の先
春の夜や顔あまやかす牡丹刷毛
永き日の机の疵をながめけり
永き日や何の奇もなき妻の顔
手焙や遅日の火種灰の中
人妻となりて暮春の襷かな
雨降りて春惜む眉静かなり
初雷の遠とどろきや梅の花
春の月ふけしともなくかがやけり
濁り江に春の白雲映りけり
望郷のゆふべや春の雲染まる
春雨や思ひ沈めばとめどなき
研ぎ上げし剃刀にほふ花ぐもり