和歌と俳句

日野草城

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

深草のや艸山瑞光寺

秋高く元政庵は古びたり

うち倚るや秋色暮るる汽車の窓

手を洗ふ水の音しぬ秋の閑

みなかみの秋を慕うて帰るなり

山房も秋なめり主ゐぬままに

楠の木のとはの翠や秋高し

秋立つや一片耿々の志

秋立ちしその夜の友の佳句一つ

秋立つや翠巒の翠今朝殊に

長病癒えで秋立ち秋なかば

心の疲れ、秋が立つても青い田よ

明石海峡朝ぐもりして今朝の秋

秋立つと乳のかごとを聴く夜かな

八月の停雲白し彩霞峰

わが葉月夜を疎めども故はなし

あをあをと夕空澄みて残暑かな

竿のものしきりに乾く残暑かな

松大樹残暑の影を横たふる

赤屋根に日の当りたる残暑かな