日野草城
水天の一髪秋の雲湧きぬ
秋の雲太虚の風に動きけり
空湾や夕さりて湧く鰯雲
稲妻に射られて松の青さかな
稲妻に明るむ傘の水浅黄
稲妻を怖れて長き睫かな
稲妻の射とほす蚊帳に眠りけり
雲切れて秋陽にはかや玉の雨
秋晴や姉の墓山ただ歩りく
秋晴や父母と距つる幾山河
秋晴や人語瞭らかにうしろより
秋晴の午後の講義の睡魔かな
秋晴や枯れがれ垂るる物の蔓
秋晴や堂縁乾れて観世音
傘買うて即ちさすや秋の雨
秋雨や静かに人を恋ひわたる
秋雨や面輪暮れゐる傘の下
黄昏の木々のかたちや秋の雨
秋雨や女役者の眉の険