和歌と俳句

日野草城

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水無月の故国に入れば翠かな

水無月の一樹いよいよ茂るなり

麦秋や日出でて霞む如意ヶ嶽

梅雨寒の昼風呂ながき夫人かな

梅雨明の大神鳴や山の中

梅雨明の豪雨となりぬ松の庭

苜蓿の花旺んなる薄暑かな

揚泥の乾く匂も薄暑かな

夏の夜や灯影忍べる廂裏

短夜や妹が仮寝の髪の艶

大阪や月の屋根屋根明け易き

短夜の郵便受にハガキかな

短夜やあすの教科書揃へ寝る

短夜の夢魔に負けたる哀れかな

腰高に寝たる女や明け易き

短夜や袴をたたむ独りもの

町暑う暮れてやんがて屋根の月

夕風に涼しく撓むポプラかな

涼しさや抜ける衣紋に触れぬ髱

涼しさや錨捲きゐる夜の船

涼しさや蚊遣線香の灯一点

後浪を控へて聳る巌涼し

晩涼や朶雲明るく比叡憂鬱

晩涼や奏楽を待つ人樹下に

晩涼や氷を削る音しきり