和歌と俳句

日野草城

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晩涼や消なば消ぬがに山の襞

夕影の青芝踏みて鶴涼し

あららかに掃くや土用の古畳

三伏や昼をまどろむ籐寝椅子

婦人会幹事極暑の鼻に汗

麻に出て大暑の星を仰ぎけり

迷ひ出て寂しき蛾なり夜の秋

サイダーのうすきかをりや夜の秋

夜の秋やピアノに躍る腕二本

夜の秋ややがて忘るる一目惚

人それぞれ吉凶ありて家の夏

薫風の鏡に写す眉目かな

薫風やくくし上げたる竹行李

烏丸やみな薫風の甍かな

薫風の素足かがやく女かな

薫風やほのかに暮るると山

南風に孕める薔薇の蕾かな

南風に化粧に洩れし耳の下

天井の竜虎明るし青嵐

青嵐の到ると見ゆる遠樹かな

青東風の襲ひかかるや大日覆

梅雨晴や午後の屋上遊歩園

紅蓮に管絃ひびく旱かな

ひそやかに茗荷花咲く旱かな

沖の島夏霞して晴れにけり