和歌と俳句

日野草城

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雨だれや葭戸の中の灯一つ

古びたる葭戸取り出し嵌めにけり

浅酌の微醺葭戸の外は川

青簾片はづれして暮情かな

雨を見る白き面輪や青簾

灯ともりて色蘇る青簾かな

灯を籠めてさやかに青き簾かな

思ひ入る青簾ゆかしき妹の居間

椶櫚の葉を打つ雨粗し簟

愁ひつつ坐る花茣蓙華やかに

籐椅子に浅く掛けたる夫人かな

籐椅子やデッキゴルフのチャンピオン

籐椅子や孤影横たふ夜のデッキ

板塀の応ふ音佳し水を打つ

水打つて茗荷の花も濡れにけり

簷晴れてさやさや青き菖蒲かな

将相の面魂や菖蒲太刀

就中腕白次男菖蒲太刀

菖蒲湯やなみなみとしてあごの下

菖蒲湯や芳芬鼻を衝くばかり

菖蒲湯や黒髪濡れて湯気の中

菖蒲湯を出てかんばしき女かな

行水や籬暮れゆくまのあたり

行水の女に灯す簾越し

行水の涼しき乳を見られけり