和歌と俳句

日野草城

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天瓜粉打てばほのかに匂ひけり

天瓜粉刷かれ溜りし眉根かな

心得てさし出す顔や天瓜粉

天瓜粉ところきらはず打たれけり

母肖なる瓜実顔や天瓜粉

くれなゐを籠めてすずしや花氷

風鈴の遠音きこゆる涼しさよ

風鈴や遠くどよもすはたた神

夕風や風鈴吊ればすぐに鳴る

月の隈風鈴ありて鳴り出づる

風鈴や月光かくも更けわたり

人知れず暮るる軒端や釣荵

庭下駄に雫落しぬ釣荵

夕風や空明に浮く釣荵

依稀として暮るる比叡釣荵

月さして岐阜提灯を昏うしぬ

岐阜提灯うす色もちて灯りけり

ありありと岐阜提灯の灯の穂かな

岐阜提灯まどかに灯る簷の闇

衣紋竹のシャツ風簷に廻る廻る

何もなき袂吹かれぬ扇風器

扇風器ややに止れば無表情

静けさや音いきり立つ扇風器

扇風器の風に触れゐる金蓮花

扇風器に立ちはだかりて涼みけり