日野草城
如意ヶ嶽と月とがありて月に暈
月添へる廃墟の草を踏みにけり
瀬頭や月に盛り上がり盛り上がり
髪の香や緑酒に沈む月の影
月明や歩々に句を得つ渚まで
月明や心にかかることもなく
篁の月影風にみだれけり
月明り篁こめて更けにけり
灯を消して月に駭く夜半の窓
三日月に媚びて薄星光りけり
薄着して肌寒を言ふ月夜かな
水棄てて月の廂を濡しけり
月光も心の疵にしむ夜かな
散策や野末に得たる月まどか
深き夜や風にみだるる月あかり
つきよみの月のしたびの妹背かな
憲兵の炊爨をかし山の月
満月たちまち癒えよ汝が宿痾
哀しさはわれ知る月に笑み給へ
月影に負けて灯籠ほのかなり