日野草城
中流へ出て水寂し秋の声
秋風や雲の影徂く東山
秋風や清涼寺いま門を閉づ
秋の風竹の幹吹く光かな
秋風や一灯煌と灯りけり
おだやかに暮れゆく比叡秋の風
秋風や吹かれほどけの瓜の花
たかどののふるきてすりや秋の風
山々の藍おとなしや秋の風
秋風や夕月色をもちそむる
病み馴れて妻の機嫌や秋の風
秋風や玲瓏として美少年
秋風やそぞろに暮るる本願寺
秋風に痩せ尽したる男かな
秋風に生けるミイラが薫るなり
野分していよいよ遠き入日かな
花畑の花みな靡く野分かな
血の色の月をあげたる野分かな
月しろやゆゆしく動く野分雲
痛快に芭蕉裂けたる野分かな