日野草城
鳥啼くや狭霧うするる金閣寺
静けさや霧に陽のさす杜の中
蟲籠をかき消す霧や深廂
嵐峡の狭霧はれゆく日向かな
舷の近くの浪や霧の海
朝霧や船出払へる大埠頭
すぐそこに船居て答ふ霧笛かな
なつかしやうするる霧に星一つ
閭に倚れば連山霧を啣みけり
暁冷いとど霧の花売眉秀づ
衝きあけて月光を断る扉かな
月さして帳の綾を浮かせけり
出航や忽ち騒ぐ月の潮
船の名の月に読まるる港かな
泊船や月にかかれる細煙
たましひのそぞろ明るむ月夜かな
戸締りを犬が見てゐる月夜かな
静けさや白猫渉る月の庭
水車月にてらてら廻りけり
荒海や沈みかねたる月一つ