和歌と俳句

朝霧の中に九段のともし哉 子規

朝霧や女と見えてたびの笠 子規

塔一ツ霧より上に晴れにけり 子規

暁の霧しづか也中禅寺 子規

島消えて舟あらはるゝ霧の中 子規

中天に並ぶ岩あり霧の奥 子規

清水の屋根あらはれぬ霧の中 子規

朝霧の雫するなり大師堂 子規

馬に二人霧をいでたり鈴のおと 漱石

船出ると罵る声す深き霧 漱石

霧こめて恵心寺見えぬ朝かな 碧梧桐

囲ひあらで湯槽に逼る狭霧かな 漱石

霧黄なる市に動くや影法師 漱石


押し照れる月夜さやけみ鳥網張る秋田の面に霧立ちわたる

居酒屋を出入る人に霧深し 虚子

学寮を出て来る僧に夜霧かな 虚子

霧立つや大沼近き宮柱 碧梧桐


群山の 尾ぬれに秀でし 相馬嶺ゆ いづ湧き出でし 天つ霧かも


久方の 天つ狹霧を 吐き落す 相馬が嶽は 恐ろしく見ゆ


はり原の 狹霧は雨に あらなくに 衣はいたく ぬれにけるかも

晶子
秋の霧 身をまく時に くろ米の 飯のにほひを おもひ合せつ

晶子
しら麻の とばりほのぼの 社見ゆ 川の隈はふ 秋霧のうへ

江上に月のぼりたる夜霧かな 蛇笏

杣の戸をしめきる霧の去来かな 蛇笏

赤彦
さ夜ふかき霧の奥べに照らふもの月の下びに水かあるらし

赤彦
霧明りかくおぼろなる土の上にとほく別るる人やあるらん

赤彦
この朝け障子ばりする縁先の石のはだへにさ霧ふりつつ

晶子
何の木か節細き木の木立より大文字山につづく霧かな

街の燈の一列に霧うごくなり 亞浪

栂風も添ふ山鳴りや霧の中 亞浪

山国の夜霧に劇場出て眠し 水巴

霧こむる四山や湖舟静かなり 麦南

夕霧や家路に馬のおとなしき 麦南

蟲籠をかき消す霧や深廂 草城

夕霧やうす星いでて笠庇 蛇笏

しばらくは月をとぼその夜霧かな 蛇笏

舷に艀軋り合ふ夜霧かな 橙黄子

鼻鳴らす我馬に応へ霧の馬 橙黄子

杣が身に霧ふる音や巌の上 石鼎

霧よ包め包めひとりは淋しきぞ 亞浪

山霧のしげきしづくや眞柴垣 蛇笏

夕霧や石ばかりなるいなり川 石鼎