青田行く水はながれて磯原の濱晝顔の磯に消入りぬ
蚊帳越しにあさあさうれし一枝は廂のしたにそよぐ合歡の木
柔かく茂り撓める合歡の木の枝に止りて羽を干す燕
水掛けて青草燻ゆる蚊やり火のいぶせきさまに萎む合歡の葉
暑き日の降り掛け雨は南瓜の花にたまりてこぼれざる程
垣に積む莠がなかのこほろぎは粟畑よりか引きても來つらむ
菜の花に明け行く空の比枝山は見るにすがしも其山かづら
白河のながれに浸でし花束を箕に盛り居ればつぐみ鳴くなり
朝靄の多賀の城あとの丘の上の初穗のすゝき雨はれむとす
うそどりの春がたけぬと鳴く聲に森の樫の木脱ぎすてにけり
うそどりよ汝が鳴く時ゆ我が好む枇杷のはつかに青むうれしも
繩結ひて糸瓜を浸てし水際の落ち行く如く秋は行くめり
障子張る紙つぎ居れば夕庭にいよいよ赤く葉頭は燃ゆ
さびしらに母と二人し見る庭の雨に向伏す山吹の花
我が植ゑし庭の葉鷄頭くれなゐのかそけく見えて未だ染めずも
秋雨の垣根の紫苑うちしなひ心がゝらに我慰まず
我が庭の芙蓉の莢のさやさやに心落ち居むは何時の日にかも
秋風は心いたしもうらさびし櫟がうれに騷がしく吹く
群山の尾ぬれに秀でし相馬嶺ゆいづ湧き出でし天つ霧かも
久方の天つ狹霧を吐き落す相馬が嶽は恐ろしく見ゆ
はり原の狹霧は雨にあらなくに衣はいたくぬれにけるかも
久方の天を一樹に仰ぎ見る銀杏の實ぬらし秋雨ぞふる
こほろぎのこもれる穴は雨ふらば落葉の戸もてとざせるらしき
鬼怒川は空をうつせば二ざまに秋の空見つゝ渡りけるかも
稻刈りて淋しく晴るゝ秋の野に黄菊はあまた眼をひらきたり
鵯のひゞく樹の間ゆ横さまに見れども青き秋の空よろし