潮さゐの伊良胡が崎の巖群にいたぶる浪は見れど飽かぬかも
伊良胡崎なごろもたかき小夜ふけに搖りもてくれば心どもなし
しづかなる秋の入江に波のむた限りも知らに浮ける海月か
わせ刈ると稻の濡莖ならべ干す堤の草に赤き茨の實
唐茄子は廣葉もむなし雜草の蚊帳釣草も末枯にして
利根川の冬吐く水は冷たけれどかたへはぬるし潮目搖る波
利根川は北風いなさの吹き替へにむれてくだる帆つぎてのぼる帆
鬼怒川の堤の茨さくなべにかけりついばみ川雀啼く
鬼怒川のかはらの雀かはすゞめ桑刈るうへに來飛びしき啼く
雨過ぎば青葉がうれゆ湖に雫するらむ二荒山の上
ゆゝしきや火口の跡をいめぐりて青葉深しちふ岩白根山
梧桐の葉を打ち搖りて降る雨にそよろはひ渡る青蛙一つ
葦村はいまだ繁らず榛の木の青葉がくれに葭剖の鳴く
長濱の搗布燒く女は五月雨の雨間の岡に麥の穗を燒く
赤井嶽とざせる雲の深谷に相呼ぶらしき山鳥の聲
松魚船入江につどひ檣に網建て干せり帆を張るが如し
きららかに磯の松魚の入日さしか ゞやくなべに人立ち騷ぐ
松蔭に休らひ見れば暑き日は浪の膨れのうれにきらめく
松越えて濱の烏の來てあさる青田の畦に萱草赤し
日は見えてそぼふる雨に霧る濱の草に折り行く月見草の花
松蔭の沙にさきつゞくみやこ草にほひさやけきほの明り雨
松蔭は熊手の趾もこぼれ葉も皆うすじめりみやこ草さく