うれしくも分けこしものか遙々に松虫草のさきつゞく山
つぶれ石あまたもまろぶたをり路の疎らの薄秋の風ふく
しだり穗の粟の畑に墾りのこる桔梗が原の女郎花の花
曉のほのかに霧のうすれゆく落葉松山にかし鳥の鳴く
諸樹木をひた掩ひのぼる白雲の絶間にみゆる谷の秋蕎麥
木曾人の秋田のくろに刈る芒かり干すうへに小雨ふりきぬ
男郎花まじれる草の秋雨にあまたは鳴かぬこほろぎの聲
木曾人よあが田の稻を刈らむ日やとりて焚くらむ栗の強飯
まさやかにみゆる長山美濃の山青き山遠し峰かさなりて
木曾川のすぎにし舟を追ひがてに松の落葉を踏みつゝぞ來し
鱗なす秋の白雲棚引きて犬山の城松の上に見ゆ
淺茅生の各務が原は群れて刈る秣千草眞熊手に掻く
鯰江の繩手をくれば田のくろの菽のなかにも曼珠沙華赤し
落葉せるさくらがもとの青芝に一むら淋し白萩の花
白栲の瀧浴衣掛けて干す樹々の櫻は紅葉散るかも
瀧の邊の槭もみぢの青葉ぬれ青葉しぶきをいたみ散りにけるかも
揖斐川は鮎の名どころ揖斐人の大簗かけて秋の瀬に待つ
揖斐川の簗落つる水はたぎつ瀬ととゞろに碎け川の瀬に落つ
近江路の秋田はろかに見はるかす彦根が城に雲の脚垂れぬ
蜆とる舟おもしろき勢多川のしづけき水に秋雨ぞふる
秋雨に粟津野くれば葦の穗に湖靜かなり遠山は見えず
秋雨の薄雲低く迫り來る木群がなかや中の大兄すめら
ひやゝけく庭にもりたる白沙の松の落葉に秋雨ぞ降る
竹村は草も茗荷も黄葉してあかるき雨に鵯ぞ鳴くなる