女郎花つかねて浸てし白河の水さびしらに降る秋の雨
秋雨のしくしくそゝぐ竹垣にほうけて白きたらの木の花
落葉せるさくらがもとにい添ひたつ木槿の花の白き秋雨
唐鶸の雨をさびしみ鳴く庭に十もとに足らぬ黍垂れにけり
糺の森かみのみたらし秋澄みて檜皮はひてぬ神のみたらし
柿の木の林がもとはおしなべて立枝の獨活の花さきにけり
巨椋の池の堤も遠山も淀曳く船も見ゆる此庵
桃山の萱は葺きけむ此庵を秋雨漏らば掩はむや誰
眞白帆のはらゝに泛ける與謝の海や天の橋立ゆほびかに見ゆ
葦交り嫁菜花さく與謝の海の磯過ぎくれば霧うすらぎぬ
橋立の松原くれば朝潮に篠葉釣る人腰なづみ釣る
松原を長洲の磯とさし出の天の橋立海も朗らに
與謝の海なぎさの芒吹きなびく秋風寒し旅の衣に
鰺網を建て干す磯の夕なぎに天の橋立霧たなびけり
干蕨蓆に曝す山坂ゆかへり見遠き天の橋立
由良川は霧飛びわたる曉の山の峽より霧飛びわたる
由良川の霧飛ぶ岸の草村に嫁菜が花はあざやかに見ゆ
須磨寺の松の木の葉の散る庭に飼ふ鹿悲し聲ひそみ鳴く
松蔭の草の茂みに群れさきて埃に浴みしおしろいの花
落葉掻く松の木の間を立ち出でゝ淡路は近き秋の霧かも
沖さかる船人をらび陸どよみ明石の濱に夜網夜曳く
淡路のや松尾が崎に白帆捲く船明かに松の上に見ゆ
瀬戸の海きよる鰯は彌水の潮の明石の潮に曳く
明石潟あみ引くうへに天の川淡路になびき雲の穗に歿る