槲木の枯葉ながらに立つ庭に繩もてゆひし木瓜あからみぬ
枳殼の眞垣がもとの胡椒の木花ちりこぼれ春の雨ふる
春風の杉村ゆすりさわたれば雫するごと杉の花落つ
桑の木の藁まだ解かず田のくろにふとしくさける蠶豆の花
桑の木のうね間うね間にさきつづく薺に交る黄花の 薺
さながらに青皿なべし蕗の葉に李は散りぬ夜の雨ふり
山椒の芽をたづね入る竹村にしたごもりさく木苺の花
樫の木の木ぬれ淋しく散るなべに庭の辛夷も過ぎにけるかも
木瓜の木のくれなゐうすく茂れれば雨は日毎にふりつづきけり
我が庭の黐の落葉に散り交るくわりむの花に雨しげくなりぬ
青芒しげれるうへに若葉洩る日のほがらかに松蝉の鳴く
莢豆の花さくみちの静けきに松蝉遠く松の木に鳴く
安房の國や長き外浦の山なみに黄ばめるものは麥にしあるらし
清澄のやまぢをくれば羊齒交り胡蝶花の花さく杉のしげふに
樟の木の落葉を踏みてくだり行く谷にもしげく胡蝶花の花さく
虎杖のおどろがしたに探れども聲鳴きやまず土ごもれかも
萱わくるみちはあれども淺川と水踏み行けばかじか鳴く聲
黄皀莢の花さく谷の淺川にかじかの聲は相喚びて鳴く
かじか鳴く谷の茂りにおもしろく黄色つらなる猿かけの花
こと足りて住めばともしも作らねど山に薯蕷堀る谷に蕗採る
濱荻の網干す磯ゆ遠くみるあられ松原人麥を打つ
あたたかき安房の外浦は麥刈ると枇杷もいろづくなべてはやけむ
人參の花さく濱の七浦をまだきに來れば小雨そぼふる
すひかづら垣根に淋し七浦のまだきの雨に獨り來ぬれば