和歌と俳句

長塚 節

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鬼怒川の篠の刈跡に柔かきはつむも笹葉掻きよせ

槲木の枯葉ながらに立つ庭に繩もてゆひし木瓜あからみぬ

枳殼の眞垣がもとの胡椒の木花ちりこぼれ春の雨ふる

春風の杉村ゆすりさわたれば雫するごと杉の花落つ

桑の木の藁まだ解かず田のくろにふとしくさける蠶豆の花

桑の木のうね間うね間にさきつづく薺に交る黄花の

さながらに青皿なべし蕗の葉に李は散りぬ夜の雨ふり

山椒の芽をたづね入る竹村にしたごもりさく木苺の花

樫の木の木ぬれ淋しく散るなべに庭の辛夷も過ぎにけるかも

木瓜の木のくれなゐうすく茂れれば雨は日毎にふりつづきけり

我が庭の黐の落葉に散り交るくわりむの花に雨しげくなりぬ

青芒しげれるうへに若葉洩る日のほがらかに松蝉の鳴く

莢豆の花さくみちの静けきに松蝉遠く松の木に鳴く

安房の國や長き外浦の山なみに黄ばめるものはにしあるらし

清澄のやまぢをくれば羊齒交り胡蝶花の花さく杉のしげふに

樟の木の落葉を踏みてくだり行く谷にもしげく胡蝶花の花さく

虎杖のおどろがしたに探れども聲鳴きやまず土ごもれかも

萱わくるみちはあれども淺川と水踏み行けばかじか鳴く聲

黄皀莢の花さく谷の淺川にかじかの聲は相喚びて鳴く

かじか鳴く谷の茂りにおもしろく黄色つらなる猿かけの花

こと足りて住めばともしも作らねど山に薯蕷堀る谷に蕗採る

濱荻の網干す磯ゆ遠くみるあられ松原人麥を打つ

あたたかき安房の外浦は麥刈ると枇杷もいろづくなべてはやけむ

人參の花さく濱の七浦をまだきに來れば小雨そぼふる

すひかづら垣根に淋し七浦のまだきの雨に獨り來ぬれば