和歌と俳句

曼珠沙華 彼岸花

燃るかと立寄る塚のまんじゆしやげ 涼菟

まんじゆさげ蘭に類ひて狐啼 蕪村

秋風に枝も葉もなし曼殊沙花 子規

ひしひしと立つや墓場のまん珠さげ 子規

餘の草にはなれて赤しまんじゆさげ 子規

酒のんだ僧の後生やまんじゆ沙花 子規

曼珠沙花門前の秋風紅一点 漱石

曼珠沙花あつけらかんと道の端 漱石


鯰江の 繩手をくれば 田のくろの 菽のなかにも 曼珠沙華赤し

木曾を出て伊吹日和や曼珠沙華 碧梧桐

法窟の大破に泣くや曼珠沙華 碧梧桐

薬干す家に摘み来ぬ曼珠沙華 碧梧桐

須磨寺や松が根に咲く曼珠沙華 碧梧桐

利玄
曼珠沙華 か黒き土に 頭あぐ 雨やみ空の すめる夕べに

仏より痩せて哀れや曼珠沙華 漱石

駆けり来し大烏蝶曼珠沙華 虚子

悔いるこころの曼珠沙華燃ゆる 山頭火

茂吉
秋のかぜ 吹きてゐたれば 遠かたの 薄のなかに 曼珠沙華赤し

茂吉
ふた本の 松立てりけり 下かげに 曼珠沙華赤し 秋かぜが吹き

崖なりに路まがるなり曼珠沙華 石鼎

杣が子の摘みあつめゐる曼珠沙華 石鼎

茂吉
まんじゆ沙華 さけるを見つつ 心さへ つかれてをかの 畑こえにけり

白秋
秋の野に あまりに真赤な 曼珠沙華 その曼珠沙華 取りて捨ちよやれ

白秋
二人見て 来むぞ真赤な 曼珠沙華 松の小蔭に ちよと入りて来むぞ

白秋
こち向け 牝牛供養の 石が立てり 曼珠沙華の花 赤き路ばた

白秋
曼珠沙華の 花あかあかと 咲くところ 牛と人とが 田を鋤きてゐる

白秋
童らが 遊ばずなりて 曼珠沙華 ますます赤く 動かであるも

葬人の歯あらはに哭くや曼珠沙華 蛇笏

利玄
戦死者の 墓はもかなり 古りにけり 赤い夕陽に 曼珠沙華咲き

牧水
風に靡く 径の狭さよ 曼珠沙華 踏みわけ行けば 海は煙れり

牧水
砂山を 吹き越す風を 恐しみ 眼伏せて行けば 燃ゆ曼珠沙華

牧水
砂山の ばらばら松の 下くさに 燃え散らばりし こは曼珠沙華

牧水
眼鏡かけし 何か云ひかけ 見かへりし 曼珠沙華の径の 痩せほけし友

牧水
鰯煮る 大釜の火に 曼珠沙華 あふり揺られつ 昼の浪聞ゆ

牧水
一心に 釜に焚き入る 漁師の児 あたりをちこちに 曼珠沙華折れし

千樫
おのづから 頭をあげて 歩みくれば み濠の土手に 曼珠沙華赤し

千樫大木の 根こぎたふれし 道のべに すがれて赤き 曼珠沙華の花

秋燕の目に恐ろしき曼珠沙華 石鼎

松二本出水に枯れて曼珠沙華 龍之介

曼珠沙華五六本大河曲りけり 喜舟

寺大破いたる所に曼珠沙華 喜舟

投網首に掛けて人来る彼岸花 汀女

われにつきゐしサタン離れぬ曼珠沙華 久女

旅の日のいつまで暑き彼岸花 亞浪

彼岸花薙がば今もや胸すかむ 亞浪

曼珠沙華茎見えそろふ盛りかな 蛇笏

利玄
曼珠沙華 咲く野の日暮れは 何かなしに 狐が出ると おもふ大人の今も

曼珠沙華傾き合ひてうつろへり 泊雲

曼珠沙華塚穴一つとり囲み 泊雲

曼珠沙華折る子に柩通りけり 播水

むらがりていよいよ寂しひがんばな 草城

曼珠沙華茎の脆さよ折り散らす 草城

夕風やへらへら笑ふしびとばな 草城

曼珠沙華無月の客に踏れけり 普羅

曼珠沙華あれば必ず鞭うたれ 虚子

叢をうてば早や無し曼珠沙華 虚子

白秋
曼珠沙華 茎立しろく なりにけり この花むらも 久しかりにし