和歌と俳句

高浜虚子

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愛でてそぞろ歩きす松の間

もてなしの女あるじや萩の花

母と娘の清らに住めり萩の宿

千二百七十歩なりの橋

月浴びて玉崩れをる噴井かな

蜻蛉のさらさら流れ止まらず

秋の蚊の居りてけはしき寺法かな

秋雨のどつと寒しや山の町

山川の斯るところに下り簗

山々の紅葉しそめぬ下り簗

廊下行く手燭に風や聞く

稲刈りて道の遠さや清涼里

崖下や打重なりて紅葉茶屋

行秋や川をはさみて異国町

墓生きて我を迎へぬ久しぶり

一人居の廻り燈籠に灯を入れぬ

提げて行く廻り燈籠を見舞かな

避暑人のへりたる濱の花火かな

花火やや飽きた空の眺められ

我声の吹き飛び聞ゆ野分かな

野分跡倒れし鶏頭皆起す

父母の夜長くおはし給ふらん

露葎老のかんばせうつるやと

其中に金鈴をふる一つ

十六夜の月も待つなる母嫁かな

いちじくのまことしやかに一葉かな

大江の両岸の蘆刈るとかや

七夕の歌書く人によりそひぬ

顔出来て浴衣著て居る踊り前

棚ふくべ現れ出でぬ初嵐

雨風や最もをいたましげ

の戸をよろぼひ入りて締めにけり

端居して月に仰むく子供かな

月明に仰ぎ伏したるベンチかな

曼珠沙華あれば必ず鞭うたれ

叢をうてば早や無し曼珠沙華

松の塵こぼるる見ゆる秋日和

秋の暮外の話に耳とむる

頂に大きな旗や菌山

峻峰の前に小さし菌山

夕靄の静かに包むの村

自らの老好もしやに立つ

病よし菊の畑の荒を見る

はらはらと山の落葉や菊畑

拾ふ却て椎の木の下に