和歌と俳句

子規
武蔵野の 萩わけゆけば わが袖に 結ぶとしらで 結ぶ露哉

白露や原一ぱいの星月夜 子規

順禮の夢をひやすや松の露 子規

からぐろの葉うつりするや露の玉 子規

露の玉小牛の角をはしりけり 子規

芋の葉に月のころがる夜露哉 子規

露いくつ絲瓜の尻に出あひけり 子規

つるつると笠をすべるや露の玉 子規

白露に家四五軒の小村哉 子規

幅広き葉を流れけり朝の露 子規

生きて帰れ露の命と言ひながら 子規

からげたる赤腰巻や露時雨 子規

蓬生や我頬はしる露の玉 子規

旅籠屋の戸口で脱げば笠の露 子規

草の戸やひねもす深き苔の露 子規

白露や芋の畠の天の川 子規

朝露や飯焚く煙草を這ふ 子規

けさの露ゆふべの雨や屋根の草 子規

白露や芙蓉したたる音すなり 漱石

はらはらとせう事なしに萩の露 漱石

鹹はゆき露にぬれたる鳥居哉 漱石

きぬぎぬや裏の篠原露多し 漱石

白露や研ぎすましたる鎌の色 漱石

灯暗き露の伏屋に戻りけり 虚子

露の宿ほ句を命の主客あり 虚子


あまの川棚引きわたる眞下には糸瓜の尻に露したゞるも

端近く連歌よむ灯や露の宿 虚子

露の草碑埋りしこのあたり 碧梧桐

露深き草の中来ぬ塔の下 碧梧桐

八十神の御裳裾川や露時雨 碧梧桐

炊ぎつつながむる山や露の音 蛇笏

暁のどの峰低し露の中 万太郎

蔵沢の竹を得てより露の庵 漱石

萩に置く露の重きに病む身かな 漱石

左千夫
今朝のあさの露ひやひやと秋草や総て幽けき寂滅の光

月うらとなる山越や露時雨 石鼎

蔓踏んで一山の露動きけり 石鼎

晶子
しら露はわがくねりたる紅の菊うす黄の菊をあなづりて置く

明かに露の野を行く人馬かな 花蓑

芋の露連山影を正うす 蛇笏

杉間よりこぼれ居る旭や露の草 石鼎

露冷えに醒めてもわれは一人かな 石鼎

庵の灯のとゞく限りや露の庭 石鼎

荷をおろす馬にともすや露の秋 石鼎

此松の下に佇めば露の我 虚子

露如何に流れ終りし竹の幹 石鼎

金剛力出して木割や露の秋 蛇笏

つまだちて草鞋新たや露の橋 蛇笏

露の中飛行船今あがりけり 万太郎

いたく揺れて来る提灯や露の道 虚子

疾くゆるく露流れ居る木膚哉 泊雲

露の門山に向ひて開けにけり 櫻坡子

風出たる椎の大樹や露時雨 風生

墓の頭へ露樹間遠に落雫 青畝

提灯の明らかになる露の道 虚子

一本の薪にも凝りて道の露 泊雲

焼け跡の草あれば露あげてゐる 亞浪

地震あとの土塊ぬらす夜露かな 水巴

日あたりてけぶりそむなり露葎 青畝

しろじろと蔽ひて広し露葎 青畝

露の蟻瓢の肩をのぼりけり 青畝

千二百七十歩なり露の橋 虚子

白露や草の中なる手水鉢 泊雲

露時雨月代あかり華やかに 泊雲

白露や天へするどき紫苑の葉 泊雲

茂吉
月かげのしづみゆくころ置きそふる露ひゆらむかこの石のうへ

白露にないがしろなり葛の花 青畝

母が裾仏華剪りきし露まみれ 爽雨

静けさや蘭の葉末の露一つ 草城

磐一打露の渓山谺かな 草城

みささぎや響き落ちたる松の露 草城

病み合うて別れ話や露の秋 草城

いたづけば露も心に沁むばかり 草城